抜歯ガイドライン

Tooth Extraction Guidelines

抜歯ガイドライン

なぜ矯正治療で
抜歯が必要になるのか

無理な非抜歯治療=歯を抜かない矯正について

矯正治療において「できるだけ歯を抜かずに治療したい」のは、患者さんも私たち矯正医も同じ思いです。

患者さんのお口の状態を診察し、精密検査などをおこなった結果「歯を抜かずに治療ができる」と診断した場合は、非抜歯での治療計画をご立案します。

しかし、抜歯をして矯正治療をした方が、長期的に見て歯並びや噛み合わせが安定しやすいと判断する場合もあります。

抜歯が必要となる代表的なケース

歯を並べるスペースが足りない

歯を並べるスペースが足りない

顎の骨が小さい、または歯のサイズが大きい場合は、歯を綺麗に並べるための充分なスペースがありません。

抜歯をせずに歯列を拡げた場合は「歯並びは整っている出っ歯」になることがあります。

また、歯列から歯がはみ出すことで歯槽骨(歯を取り巻く骨)が薄くなり、歯茎が下がることで、将来的な歯周病のリスクも高まります。

治療後の安定性を高めるために

治療後の安定性を高めるために

無理な非抜歯での治療は「後戻り」のリスクも高めます。

スペースに余裕がないまま並べた歯列は不安定になりやすく、治療直後は歯が綺麗に並んでいても、時間の経過とともに、歯が元の位置に戻る「後戻り」が起こりやすいです。

納得のいく結果につなげるために

納得のいく結果につなげるために

当院では「歯を抜かないで治療するか、歯を抜いて治療するか」について、リスクやデメリットをしっかりご説明したうえで、患者さんと相談しながら決定します。

多くの患者さんにとって、一生に一度の矯正治療だからこそ、納得して治療を受けていただけることを大切にしています。

抜歯の部位

抜歯の部位

矯正治療で歯を抜く必要がある場合は、噛み合わせや見た目、それぞれの歯が持つ役割に考慮しながら、機能面への影響が少ない歯を抜歯の対象とします。

小臼歯

多くの場合、第一小臼歯(4番目)、または第二小臼歯(5番目)が対象になります。

小臼歯は前歯や犬歯、大臼歯と比較して、抜歯後も噛み合わせや見た目に大きな影響を与えにくいため、便宜抜歯(矯正治療のために歯を抜く処置)に選ばれることが多いです。

親知らず(第三大臼歯)

親知らず(第三大臼歯)がまっすぐ生えていて、特に問題がない場合は抜歯の対象になりません。

ただし、以下のようなケースでは、抜歯を検討することがあります。

  • 斜めや横に生えていて、隣の第二大臼歯を押している
  • 歯並びが悪い原因になっている
  • 清掃が難しく腫れや虫歯などが繰り返し起こる

ちなみに、親知らずは歯列矯正の対象外(全顎矯正は第二大臼歯まで)です。そのため、矯正治療中に親知らずが生えてきても、生え方に問題がなければ大きな影響はありません。

埋伏歯

埋伏歯

埋伏歯とは、乳歯が抜けたあと、歯茎の中に埋まったまま出てこない永久歯のことです。

開窓・牽引(歯茎を切開して埋まっている歯を萌出させ、適切な位置まで歯を引っ張り出す)をおこなう場合もありますが、状態によっては埋伏歯の抜歯を選択するケースもあります。

その他の抜歯対象になる歯

小臼歯や親知らず以外でも、以下のような歯がある場合は、抜歯の対象になることがあります。

その他の抜歯対象になる歯

小臼歯や親知らず以外でも、以下のような歯がある場合は、抜歯の対象になることがあります。

矮小歯など形態に異常のある歯

通常の歯よりも極端に小さい歯「矮小歯」は、上顎側切歯(2番)に発生するケースが多いです。

上下左右で歯の大きさが違うとバランスが悪く、噛み合わせの確立も難しいため、抜歯対象になることがあります。

過去に治療歴がある歯

虫歯治療などをおこなった歯は、健康な歯と比較して寿命が短くなりやすいです。 そのため、抜歯の対象として選ばれる場合があります。

先天欠如歯の反対側の歯

生まれつき歯が欠けている場合、歯並びの左右対称を考慮して、反対側の歯を抜くことがあります。

抜歯の時期

抜歯の時期

抜歯のタイミングについては、診断・治療計画・患者さんの成長・歯列の状態から、総合的に判断します。

症例によって「矯正装置の装着前・装着後」、または「ある程度、歯列が並んでから」など、それぞれ異なります。

抜歯のタイミングは調整可能

修学旅行や受験、結婚式など大切な予定がある場合は、抜歯のタイミングを調整することも可能ですので、事前にご相談ください。

抜歯の処置について

抜歯の処置について

当院では、原則的に抜歯をおこなっていません。

抜歯が必要な場合は、内容に応じて他の医療機関をご紹介しています。 紹介状をお渡ししますので、お申し付けください。

比較的簡単な抜歯(小臼歯など)

かかりつけの歯科医院や、ご希望の地域にある一般歯科をご紹介しています。

難しい抜歯(親知らず・埋伏歯など)

一般歯科では対応が難しい複雑な親知らずの抜歯や、入院や手術を伴う埋伏抜歯の場合は、歯科口腔外科のある医療機関をご案内しています。

主な紹介先

  • 兵庫県立近畿中央病院
  • 淀川キリスト教病院
  • 池田市立病院
  • 大阪歯科大学附属病院
  • 伊丹市立伊丹病院 など

ご紹介先での注意事項

抜歯のご紹介先での注意事項についてご案内いたします。 大切な内容ですので、必ずご一読いただきますようお願いいたします。

診療は基本的に平日のみ

ご紹介先の歯科口腔外科がある医療機関の診療は、基本的に平日のみです。

予約が必要

外来診療は完全予約制のところも多く、予約なしでは受診ができない場合もあります。 必ず事前にご確認ください。

抜歯は別の日におこなう

初診当日は、診察や検査・説明などが中心で、抜歯までおこなうことはありません。 診察後に抜歯の日程を決め、別日に予約をお取りいただきます。

抜歯の日程は紹介先で決定

抜歯の日程は紹介先とのご相談で決定します。 当院から日程を指定できませんので、あらかじめご了承ください。

術後は紹介先でフォロー

抜歯後の抜糸や診察は、原則として抜歯をおこなった医師が担当し、術後の経過もフォローします。 当院での治療を再開するタイミングについては、担当の医師にご確認をお願いします。

また、創部(抜歯後の傷口)の状態が安定していれば、当院で抜糸のみをおこなうことも可能です。 ご希望のある方は、事前にご相談ください。

抜歯の費用と注意点

抜歯の費用と注意点

自費の歯列矯正のために抜歯する場合は、抜歯の費用も自費(保険適用外)になります。

抜歯のための紹介状をお渡しします

矯正治療中に抜歯が必要となる場合は、必ず当院から文書による紹介状を作成し、提携先またはご希望のクリニックやかかりつけの歯科医院にご紹介いたします。

紹介状には、

  • 現在の症状
  • 患者さんのお困りごと
  • 抜歯の目的
  • 抜歯する歯の部位

などが記載されており、紹介先ではこの内容に基づいて抜歯処置をおこないます。

そのため、必ず当院からお渡しする紹介状をお持ちいただき、抜歯を受けていただくようお願いいたします。 くれぐれもご自身の判断で受診・抜歯の処置を受けることのないようご注意ください。

トータルフィーに抜歯費用は含まない

当院では原則として紹介先の医療機関で抜歯処置をおこないます。 そのため、抜歯にかかる費用は当院のトータルフィー制度の対象外であり、矯正治療費には含まれません。

抜歯費用は紹介先で支払う

抜歯にかかる費用は、紹介先の医療機関でお支払いいただきます。 あらかじめご了承ください。

抜歯後の過ごし方

抜歯後の過ごし方

詳しくは抜歯をしていただく先生の指示に従ってください。 抜歯後は、傷口の治癒を妨げないように過ごすことが大切です。

当日・翌日に気をつけること

強く口をゆすがない・傷口を触らない

抜歯後の傷口部分にできる血餅(血のかたまり)が取れると、治りが遅くなったり、感染症にかかりやすくなったりします。

飲酒・喫煙・激しい運動を避ける

血行が促進されると、出血や腫れの原因になります。抜歯当日から24時間は止めましょう。

柔らかいものから食べ始める

抜歯当日は、おかゆやポタージュ、ゼリー、ヨーグルト、スムージーなど、噛まずに飲み込めるものが適しています。

翌日以降は麺類やハンバーグ、柔らかく煮た野菜など、柔らかくて噛みやすいものを少しずつ食べ始めます。しばらくは、固いものや辛いものを避けましょう。

薬について

指示通りに処方された薬を飲む

処方された薬は、医師の指示通りに服用してください。自己判断で中止すると、傷口が治りにくかったり、症状が悪化したりする恐れがあります。

術後の経過は、原則として紹介先の先生が担当します。追加の薬の処方などについても、紹介先の医療機関へご相談ください。

緊急時は当院でも対応可能

ただし「紹介先が休診中である」「遠方で受診が難しい」というような場合は、当院でも必要に応じて抗生剤・鎮痛剤を院外処方でお出しすることが可能です。

術後の症状が気になるとき

腫れや痛みが強い、出血が止まらないなど、気になる症状がある場合は、ためらわずに紹介先の医療機関にご相談ください。

早めの対応が、症状の悪化防止や安心にもつながります。「様子を見ようかな…」と思わず、少しでもご不安なことがあれば、遠慮なくご相談ください。

よくある質問

Q. 抜歯は
どのようにおこなわれますか?

A. 局所麻酔をしたうえで、専用の器具で歯を丁寧に抜きます。 麻酔をしているので痛みはほとんど感じません。歯を抜いた後は、患者さんにガーゼを噛んでもらい、止血をします。

親知らずの場合

まっすぐに生えている歯であれば、比較的スムーズに抜歯できます。 一方、親知らずのように、歯の根っこが複雑な形状をしている場合は、歯を2つや3つに分割してから抜くケースもあります。

埋伏歯の場合

歯茎に歯が埋まっている「埋伏歯」は、歯茎を切開して、埋まっている歯を取り出します。 その後、切開した傷口を縫合します。

Q. 抜歯には
どれくらい時間がかかりますか?

A. 抜歯そのものは、数分から10分程度で終わることがほとんどです。 麻酔から抜歯後の処置(止血・消毒など)、術後の説明を含めると、全体で30分~1時間ほど見ておくと安心です。

ただし、斜めや横向きに生えた親知らずや、埋伏歯などの難しい抜歯の場合は、さらに時間がかかることが多いです。

Q. 子どもの抜歯に
保護者の付き添いは必要ですか?

A. はい、未成年の患者さんが抜歯を受ける際には、保護者の方の同伴をお願いしています。

また、紹介先での診察時に「この歯を抜いても大丈夫ですか?」と再確認されることもあり、ご本人や保護者の方が抜歯内容をしっかり理解し、説明できることが大切です。

当院ではレントゲンなどの資料を用いて「なぜ抜歯が必要なのか」や「どの歯を抜くのか」などを、丁寧にご説明しますので、ご不安な点があれば遠慮なくお尋ねください。

Q. 全身麻酔で抜歯は可能ですか?

A. はい。対応可能な医療機関であれば、以下のようなケースで全身麻酔を用いられることがあります。

全身麻酔が使用される代表的なケース

  • 親知らずが深く埋まっており、顎の骨を大きく削る必要がある場合(難抜歯)
  • 一度に複数本の親知らずを抜歯する場合
  • 強い恐怖心や嘔吐反射があり、局所麻酔での処置が難しい場合

全身麻酔の可否や必要性は、実際に抜歯を担当する口腔外科医・麻酔科医の診察や判断によって決定されます。 そのため、ご希望をお伝えしても、対応ができない場合があることもご了承ください。

全身麻酔のリスクについて

麻酔科医が全身管理下でおこなう全身麻酔は、高度なモニタリング・術前のリスク評価・緊急時の即応力・ガイドラインに基づく運用などの体制がとられ、世界的に広く実施されている医療行為です。

ただし、以下のようなリスクが報告されていることも、理解しておくことが大切です。

  • 呼吸抑制
  • 循環障害(血圧・心拍の異常)
  • アレルギー反応
  • 嘔気・嘔吐・頭痛
  • 非常にまれに重篤な合併症(意識障害など)

※重大な合併症の発生率は、0.01%〜0.1%(1,000〜10,000人に1人)程度とされています。

詳しくは紹介先の医療機関でご説明をお聞きください。

Q. 妊娠中の抜歯はできますか?

A. 抜歯を含む妊娠中の対応については、厚生労働省や日本歯科医師会のガイドラインに基づき、慎重に対応しています。

一般的に、妊娠中期(妊娠5~7ヶ月)であれば、必要に応じて抜歯が可能です。ただし、処置内容やお口やお体の状態によっては、出産後まで延期を検討するケースもあります。

最終的な可否については、抜歯を担当する医師と産婦人科の主治医との相談のうえで判断いたします。

Q. 親知らずの抜歯に
リスクはありますか?

A. はい。親知らずの抜歯は一般的な処置ですが、以下のようなリスクが報告されています。

腫れ・痛み

抜歯後に傷口部分が腫れたり、痛みを感じたりすることがあります。通常は2〜3日で症状のピークを迎え、その後徐々に治まります。

出血

抜歯当日は、唾液に血が混じる程度の出血が続くことがあります。多くの場合は自然に止まりますが、止血が不十分で止まらない場合は、紹介先の医療機関や当院までご連絡ください。

神経麻痺(下歯槽神経麻痺)

発生頻度は0.4~5.5%程度ですが、下顎の親知らずが神経の近くにある場合、抜歯時に神経が刺激や損傷を受けると、下唇や顎にしびれが生じることがあります。 ほとんどは数週間〜数ヶ月で治まりますが、ごくまれに長期にわたって症状が残ることもあります。

舌神経麻痺

報告されている発生頻度は0.1〜2.0%程度です。下顎の親知らずを抜歯する際に、舌側からの切開や器具の操作によって、舌神経が損傷を受けると、舌のしびれや味覚障害が起こる場合があります。

開口障害

抜歯後の炎症や筋肉のこわばりによって、一時的に口が開けにくくなることがあります。 通常は数日〜1週間ほどで自然に改善します。

Q. 抜歯後、いつから矯正治療を
再開(開始)できますか?

A. 歯を抜いて1週間~1ヶ月ほど経過した後に、矯正治療(矯正装置の装着など)を再開できます。

ただし、開始のタイミングについては、患者さんのお口の状態によって異なるため、紹介先の医療機関や当院での診察結果をもとに判断いたします。

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